最近、立て続けにインフレの定期預金利息に与える悪影響に関する記事を見かけましたので取り上げてみたいと思います。上記記事ではタカシさん・ヨウコさんからなるD夫婦がアフロFPに資産運用を相談するストーリーになっています。
マネー相談にファンキーさが入り込む余地があるかどうかはともかくとして、平易な文章となっていますのでご興味がある方はチェックしてみてください。
で、今回、アフロFP氏が持ち出してきた統計がこちらです。
ちょっと解像度が低くて判別しにくいですが、要するに消費者物価指数=インフレ率の推移ですね。ご存知の通り安部政権の最大の政治課題がデフレ経済からの脱却であり、具体的にはこのインフレ率をプラスに持ってくることが目標なわけですが、2013年はついに0.4%とプラスになったのですね。
とりあえず、政策課題の実現という観点からは及第点が与えられる結果と言えるのかもしれませんが、2001年からの総合指数の推移を書き並べるとこうなります。
・2001年 : −0.7%
・2002年 : −0.9%
・2003年 : −0.3%
・2004年 : 0.0%
・2005年 : −0.3%
・2006年 : 0.3%
・2007年 : 0.0%
・2008年 : 1.4%
・2009年 : −1.4%
・2010年 : −0.7%
・2011年 : −0.3%
・2012年 : 0.0%
・2013年 : 0.4%
いかがでしょう?ただデフレ、デフレと言うわりにはこの13年間でマイナスは7回に留まっており、著しく物価が低下している、という感じではありませんね。
実際、指数的には2001年が101.9だったものが2013年はちょうど100.0ということであり、そもそもほとんど変わっていないことに加え、こうした物価指数の算定は「新商品の値上げ」が反映されにくく、そうした点を踏まえれば実感としてはこの13年間、「物価は全く変わっていない」という理解でいいのではないかと思います。
中央銀行の最大の役割は物価の安定ですので、その点では日銀は史上稀に見る優等生ということですね。オリンピックがあれば金メダルであるのは間違いありません。残念ながら世間の評価は「予選落ち」レベルではありますが・・・。
それはともかくとして、こうしたインフレ率の推移を目にしたときに思いをはせないといけないのが、ご自分の定期預金の利率です。と言うのもインフレ率が0.4%ということであれば、モノの価値が上がる=お金の価値が下がるわけで、預金利率がそれを上回らないと預金の価値が目減りしてしまうからですね。
上記記事の例のように仮に預金金利が0.2%であれば税金を考慮しないとこういう推移となった、ということです。
・モノの価値 : 100万円 → 100万4千円
・預金の価値 : 100万円 → 100万2千円
つまり2,000円分、物価上昇に負け、定期預金の価値が目減りしてしまった、ということです。
これまでのようにデフレの時代であれば、こうした定期預金の目減りを考慮する必要がなく、むしろ2009年のように1.4%も物価が下がった時であれば、仮に預金金利が0.2%であれば、実質的に1.4%+0.2%=1.6%の高利回りだったわけですが、今後、インフレ経済へと移行するのであれば、今までとは別の「預金金利がインフレ率に勝っているかどうか」という視点が必要になってくる、ということですね。
安部政権&黒田日銀が目指すのは年2%のインフレですし、世界的に見てもインフレが普通なのであって、デフレが続く日本経済というのは極めて特異な状況です。
そう考えればインフレを前提にした資産運用の必要性というのは説得力はあります。
では具体的にインフレ下で有利な資産運用とは何かといえば、「価値が減らないモノ」であれば何でもいいわけですが、現実的な選択肢としては、「株式」「不動産」「貴金属」の3つになるのではないかと思います。
中でも最もポピュラーで手軽なものが「株式」ですね。つまり、今後本格的なインフレ経済を迎えるのであれば、どこかで定期預金中心の資産運用から、株式中心の資産運用へと切り替えていく必要がある、ということですね。
ただし。
それはあくまで「本格的なインフレ経済を迎えるのであれば」 という前提条件つきですね。と言うのもいくら前年比+0.4%と言ってもプラス幅は正直、誤差の範囲内ですし、仮に+1.0%を超えてきたとしても予断は許しません。
たとえば2008年のインフレ率は1.4%に達していますが、その後のリーマンショックにより、2009年は−1.4%とキレイに「行って来い」となっています。
また、2013年のプラス0.4%も、個別に見ると、エネルギーを除けば−0.2%と一転してマイナスとなっており、つまりこのプラスはあくまで「円安による原油価格の上昇」が後押ししたものであることが分かります。
消費者のマインド変化などではなく、あくまで為替相場によるものだとすれば、再度円高になれば、あっさりデフレ経済へと逆戻りすることになります。
そう考えれば、インフレによる定期預金の目減りを恐れるとすれば「1.0%を超えるインフレが2〜3年続いてから」といったのんびりしたスタンスでいいのではないですかね?
また、この定期預金vsインフレに関して興味深いデータが日経新聞に掲載されていました。
こちらは1970年からの44年間で、インフレ局面時に「1年もの定期預金」「株式」「不動産」のリターンがどのように変化したか、ということですが、このグラフを素直に読めば、「やっぱりインフレ時には相対的に株式投資が有利」ということになります。
一方、定期預金のリターンに注目すると、インフレ率の上昇と共に定期預金の利率も上昇しており、ほとんどの期間で「インフレ率に負けていない」ことも分かります。
唯一、明確にインフレ率に負けているのは「インフレ率8%以上」の時期ですが、このときはその株式がマイナスリターンとなっていますので、やはり定期預金は思われているイメージよりも「インフレに強い」と言えるのかもしれませんね。
そしてもちろんこのグラフはあくまでインフレ局面だった時期のリターンを集計した結果であり、反対にデフレの時代には、定期預金が着実にプラスのリターンを維持する一方で、株式や不動産は大幅なマイナスになっていたわけで、グラフはありませんが「定期預金の圧勝」だったことは間違いありません。
「インフレにも負けず、デフレにも強い」ということであれば・・・日本で定期預金の人気が高いのも当然かもしれませんね。
いずれにしても歴史的に見れば、定期預金はインフレに対して思った以上に耐性がありそうです。
今後、インフレ率の上昇と共に「定期預金金利が実質マイナス!」といった文言があふれてくるのかもしれませんが、まずそれが本当に日本経済の構造変化によるものなのか、あるいは単に為替相場の変化・景気循環によるものなのかを慎重に見極める必要があることに加え、本当にインフレ経済となっても、定期預金の金利がインフレ率に大きく負けることは考えにくそう、という点を踏まえ、慎重にご判断いただければと思います。
参考になさってください。
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