預貯金の目的について、漠然と「老後のため」と答える方はかなり多いですが、では実際のところ老後に必要な資金というのはいくらなのでしょうか?
これについては計算自体はかなり簡単で、 2010年度の総務省・家計調査報告によると夫65歳以上・妻60歳以上の高齢無職世帯の1ヶ月の平均支出は26万4,948円とのことです。
仮にこの生活があと20年くらい続くとすれば、
・ 26万4,948円 × 12ヶ月 × 20年 = 6,359万円
ということになります。さらに夫婦ともに90代まで生きることも視野に入れて30年続くとすればこうなります。
・ 26万4,948円 × 12ヶ月 × 30年 = 9,538万円
約1億円ですね。老後の生活費が語られるときによく「1億」というフレーズが飛び出してきますが、それにはこうした数字の根拠があるのです。
ただし、本当に1億円ないと生きていけないのであれば、毎日多くのシニアの方々の生活が破綻し生命の危機にさらされているはずですが、そうはならないのはもちろん収入があるからですね。
最も頼りになるのは年金ですが、同調査によれば高齢無職世帯の1ヶ月の平均収入は概ねこのようになっています。
・公的年金 : 20万8,080円
・その他 : 1万5,677円
つまりは、26万円の支出に対して22万円の収入があるわけで、毎月の赤字は4万円(4万1,191円)に縮まります。こうなってくると老後に必要な預貯金というのはこうなってきます。
・「老後」が20年続く場合 : 約989万円
・「老後」が30年続く場合 : 約1,483万円
ぐっと現実的な数字となってきますね。こちらの記事でもご案内しているようにシニアの方々の平均金融資産は2,000万円前後となりますので一般的なケースでは十分まかないきれることになります。
>>> 預貯金の目安〜みんなはいくらくらい貯めているの?
これが、「老後難民」が生まれているわけではない理由の1つですね。
もちろん住宅ローンや子どもたちの学費をまかなった上で1,500万円近い預貯金を貯めるのはそれほど簡単なことではありません。
また、上記の通り「金融資産」が2,000万円前後あると言っても、日本の場合、その大きな部分が生命保険となっていますので簡単に換金できるわけではありません。
さらに厄介なのは60歳から65歳までの空白の5年問題です。60歳で退職しても年金を受け取るまでに5年かかるわけで、その間の生活費は、26万4,948円 × 12ヶ月 × 5年 = 1,590万円と計算の上では莫大な金額になってきます。
こうした金額を別途貯めようと思えば常識的に考えればかなりハードルは高いですね。
そして最後につけくわえるとすれば今の公的年金制度はこのまま維持するのは不可能だ、ということですね。財政が大赤字の状態では、税収を増やし、歳出を減らす必要がありますが、どちらも老後の生活費に大きく影響します。仮に年金カット+医療費自己負担増などの対策が進められて毎月の収支が5万円悪化すれば、必要な預貯金の額はここまで増えます。
・「老後」が20年続く場合 : 約2,189万円
・「老後」が30年続く場合 : 約3,283万円
前述の60歳までの空白期間を含めれば最大で必要な預貯金の額は4,873万円まで膨らむ、ということですね。
ここで青ざめている読者の方がもしかするとおられるかもしれませんが、もちろんこれは机上の空論です。生活費はもっとフレキシブルだからですね。
まず収入を増やすことは簡単にできます。 働けばいいのですね。周りの60代を見れば分かる通りみなさんとても元気です。仮に月20万円でも収入を確保できれば、それだけで5年間で+1,200万円の収入増となります。
加えて配偶者の方も同様の収入を確保できれば、さらに+1,200万円となり、合わせて2,400万円となります。
仮に資金不足額が上記の通り最大4,873万円だとしても、「2人で65歳までフルタイムで働く」と決断するだけで不足額は2,473万円まで半減する、ということですね。
上記の通り今の60代は元気ですから、いっそ「2人で70歳までフルタイムで働く」という決断をすれば不足額はほぼ解消されますが、もう少し余裕をもって「2人で65歳から70歳まで週の半分働く」とすると、2人合わせて5年間でもう1,200万円稼げますので、不足額は1,273万円とより現実的なレベルまで低下することになります。
さらに収入を増やす以上に簡単なのが支出を抑えることです。上記の通り、夫65歳以上・妻60歳以上の高齢無職世帯の1ヶ月の平均支出は26万4,948円とのことですが、仮に月4万円生活費を圧縮すればこのように支出を削減できます。
・「老後」が20年続く場合 : 約960万円
・「老後」が30年続く場合 : 約1,440万円
26万4,948円の生活費が、22万4,948円になったとしても生活の質が大きく落ちることはないと思いますが、ここまでくれば仮に60歳の時点で預貯金がなくても完全にカバーできるわけですね。
まとめるとこうなります。
<「老後」が30年続く場合>
ステップ1:平均的な赤字額は約1,483万円
ステップ2:60歳から65歳までの赤字額はさらに約1,590万円
→1+2=マイナス3,073万円
ステップ3:年金カット等により毎月の赤字がさらに5万円増えると赤字額は約3,283万円
→2+3=マイナス4,873万円
ステップ4:60歳から65歳まで共働きで20万円×2の収入を得ると黒字額は約2,400万円
→2+3+4=マイナス2,473万円
ステップ5:65歳から70歳まで共働きで10万円×2の収入を得ると黒字額は約1,200万円
→2+3+4+5=マイナス1,273万円
ステップ6:生活費を約26万円から約22万円に削減すると黒字額は約1,440万円
→2+3+4+5+6=プラス167万円
70歳まで働くことと生活費の削減により、仮に将来的に予期せぬ年金カット等があっても、老後の収支をマイナス4,873万円からプラス167万円まで劇的に改善できる、ということですね。
そもそも60歳から90歳までの30年間、何も働かないというのはとても健康的とは思えません。心身のアンチエイジングのためにもむしろ働くことは積極的に評価してよさそうです。
さて上記でご紹介したコラムは「老後の備えは300万の定期預金で十分」とのことで、記者の上記のような考え方と同じかと思いましたが・・・言っていることはおおむね同じであるものの、「働き続けることを前提にすれば、多額の老後資金は必要ありません。とりあえずは300万円程度で十分。」とのことで、なぜ300万円なのか全く示されていませんね。
「とりあえず」とのことですが、そこはもう少し具体的な根拠を示してほしかったですね。何せコラムのタイトルが「老後の備えは300万の定期預金で十分のワケ」なのですから・・・。
と言うわけで老後の生活については少なくともそう悲観的になる必要はないと思います。
ただし。
「何とかなる」からといって「老後への備え」の大切さがいささかも失われるわけではありません。上記のようなケースでは生活費はカバーできるものの、老後が30年続くという前提に立てば、必ず持ち家は大規模な修繕や建て替えが必要ですし、現実的には残された方の老人ホーム等への入居費用も必要になってきます。
そんなわけで少なくとも60代世帯の平均値である2,000万円強の金融資産程度は、持ち家とは別に確保したいものですね。備えあれば憂いなしであるのは間違いありません。
参考になさってください。
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