当方のサイト上でアヤシイ投資商品の広告が表示されているのを見たのをきっかけに、これまで連続してそうしたグレー商品の危険性について素人なりに分析してきました。
そして今回取り上げるのはインベスターズクラウド社の「TATERU FUNDING」ですね。第一号案件の予定分配率は年利5%ということでなかなか魅力的です。
ただ残念ながら5%という高い利回りをリスクフリーで実現することは不可能です。もし本当にそうした案件があるのであれば自己資金で運用するはずですからね。そうすればその利回りをすべて自分のものにすることができます。わざわざ見ず知らずの投資家に分配する篤志家など、少なくともビジネスの世界にはいません。
そうしたわけでこの案件の本当の利回りを考えてみたいと思います。まずこの案件の投資対象はこういう物件ですね。
なかなか素敵な物件です。運営会社が自身もアパートの開発を行うインベスターズクラウド社ということもあってかモダンなデザインですね。
案件の詳細としてはこうなっています。
・所在地 : 愛知県名古屋市中村区
・構造 : 木造アパート1棟(8室)
・竣工日 : 2009年2月
・出資総額 : 6,400万円
・募集金額 : 4,480万円
・予定分配率 : 年利換算5%(税引前)※確定したものではございません。
ではまずこの木造アパートの利回りを考えたいと思います。所在地と竣工日で探すと空き部屋がヒットしまして管理費+家賃で月5万1千円のようですね。それが8室とすると年間の家賃収入は約490万円となります。
出資総額は6,400万円ということですから表面利回りは7.66%ということですね。
ただいつも満室とはいかないのがアパート経営でして、すでに1室の空きが判明したように、常時1室が空いているのだとすれば空室率は12.5%となり、これを控除した想定利回りは6.69%=約429万円となります。
次に大きいのが建物の痛みですね。木造アパートの耐用年数はいくらくらいでしょうか?がんばっても40年くらいとすれば、すでに7年が経過していることもあり、残りは33年です。つまり、33年で6,400万円の価値がゼロになるとすれば年間約3%=約192万円の価値を失っていくことになります。
とするとこの建物の痛み=減価償却を控除した想定利回りは3.69%=約236万円ということになります。すでにこの時点で予定分配率の5%を下回っていますね!
ただもしかするとこの出資総額には土地代も含まれているのかもしれません。土地代も含まれているとするとその部分については33年後も価値を保ち続けるわけですが、仮に土地代が入っていたとしても庶民的な雰囲気を勘案すれば2〜3割でしょうか?
ということで土地代は3割とすると、出資総額6,400万円のうち建物代は4,480万円ということになり、これが33年で価値ゼロになっていくとすれば年間の建物の痛みは2.1%=約134万円となります。
想定利回りは4.59%=約295万円ですね。やっぱり5%を下回ります。
さらに築年数が増せば賃料はどんどん下がっていきますから、今現在の実質収入が約295万円であっても年間少なくとも1〜2%は下がっていくのではないでしょうか?
表面家賃収入=約429万円の1〜2%ですから年間約4万円〜9万円減少していくわけで、10年後には実質収入が約205万円〜255万円に低下している、ということですね。
加えて10年に一度はガス、水まわり、電気、屋根、外壁のメンテナンスが必要で、これらがおそらく数百万円になってくるでしょうし、固定資産税もかかります。管理費だっていりますね。
そのように考えていくと実質的な利回りは0%〜2%と言った水準に下がっていくのではないでしょうか。要するにアパートローンを借りると赤字になってしまう水準ということですね。
実際、ローンを組んで不動産投資をして損をした、という話を聞いても儲かったという話を聞いたことがありません。リーマンショック直後にワンルームマンション投資の会社が軒並み倒産したことがすべてを物語っております・・・。
以前テレビ番組でも、「地方でアパート経営をしても儲からない」という大家さんの声が紹介されておりまして、リアルな発言だなと思ったことを覚えています。
そうしたわけで、このアパートへの投資で安定的に5%のリターンを期待するのは無理があります。
が。
他の怪しげな投資案件と異なり、この案件がすばらしいのは、上記の通りマザーズ上場のインベスターズクラウド社が運営しているという点ですね。
同社の2016年1〜3月期の経常利益は約5億円であり、通期予想では約29億円ということです。つまりこの投資案件で年間数百万円の「足」が出たとしても十分賄えるだけの体力がある、ということです。
本来なら0%〜2%程度の価値しかない投資案件に5%の利回りを提供してくれるということですから、これはもうキャッシュプレゼントと思って参加するのもよいかもしれませんね。
ただし、そもそも事業継続性がない案件なのだとすれば、次回以降、利回りが大きく下がる可能性がありますし、同社自身が指摘しているようにこの5%は「確定したものではございません」とのことですから、本来あるべき利回りに修正されるかもしれません。
また仮に同社が実質的に損失補てんしてくれたとしても、そこはベンチャーですから3年後・5年後には本業が破たんしているかもしれません。とすれば元本が持っていかれるわけですから、たとえ年5%のリターンをもらっても大幅な損失ですね。
世の中にはウマい話はありませんので、そうしたリスクを冷静に見極め投資の是非を判断いただければと思います。
ちなみにこの第一号案件は20分で完売したようで、今のところ第二号案件については発表されていません。「これは・・・儲からない!」と同社が気が付けば第二号案件は永遠にないかもしれませんね・・・そもそも上場企業ということは株主が許さないはずです。
果たして第二号案件は出てくるでしょうか?
そしてその利回りはいくらに設定されるのでしょうか?
しかし何より興味深いのは、繰り返しになりますが同社が上場企業である以上、来年にはこのビジネスの収支が発表される可能性が高いということですね!
こうしたファンディングビジネスの実態はどうなのか・・・つまびらかにされることを期待したいと思います。
参考になさってください。
では最後に、あくまで一般論ですが、いつもご案内しているアヤシイ運用を見分けるチェックポイントはこうなっています。
1.リスクとリターンは連動しており、たとえば毎年5%のリターンなら毎年4%といった損失が、毎年10%のリターンなら毎年9%といった損失が発生する可能性があり、そうした損失発生の可能性を隠しているのであれば詐欺の可能性がある。
2.もし本当にローリスク・ハイリターンのビジネスがあるなら銀行が1%〜2%といった低利で喜んでお金を貸してくれるはずであり、それをわざわざ手間暇かけて個人から高金利で資金を集めるというなら詐欺の可能性がある。
3.「マイナス金利」で運用難の今の時代に本当に有利な商品ならみんなが飛びつくはずであり、わざわざ広告しないといけないのは詐欺の可能性がある。
加えてこちらの記事も参考になさってください。
>>><備忘録>怪しいファンド、投資案件の見分け方
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