前回のこちらのコラムでは、「投資詐欺・悪徳商法から定期預金を守るには?」ということで、歴代の投資詐欺とその対策について述べました。
まず歴代の投資詐欺で巨額のものは以下の通りです。
・2011年 : 安愚楽牧場の和牛預託商法事件 / 被害額4,207億円
・2007年 : エル・アンド・ジー(円天)の疑似電子マネー事件 / 被害額2,260億円
・1985年 : 豊田商事の金現物まがい商法事件 / 被害額2,025億円
・2001年 : 大和都市管財の抵当証券詐欺 / 被害額1,100億円
・2000年 : 法の華三法行の霊感商法事件 / 被害額950億円
・2008年 : ワールドオーシャンファームのエビ養殖事件 / 被害額849億円
・2007年 : 平成電電の出資金事件 / 被害額500億円
・2002年 : ジー・オーグループの通信販売事件 / 被害額478億円
・2006年 : 近未来通信のIP電話基地局投資事件 / 被害額400億円
これらが全てかどうかは分かりませんが、記者としては最初の方で思い出す、「平成電電」や「近未来通信」の被害額が意外にそれほどではないことが印象的です。被害額としてはとにかく「安愚楽牧場」が巨額ですが、一方で、それに続く「円天」などは金額が大きい割にはあまり社会問題にならなかった気がします。
社会背景や経済状況が異なるということなのかもしれませんが、仮に自己責任の原則が世の中に広まりつつあることも一因なのだとすれば、預金者として、投資家として、少しドキっとしてしまいますね。
というのも怪しい話を自信を持って「怪しい」と言うのは素人にはややハードルが高いからです。
そんなわけで気になる怪しい投資話を見分ける方法としては、前回以下のような点を指摘させていただきました。
1.ウマい話などない
2.もし本当にウマい話やお得な話があれば秘密にしておくのが一般的で、わざわざ向こうから勧誘してくる可能性はゼロ
3.あなたに届いた投資の誘いは、銀行からの融資があてにできないビジネスであり、その時点でやはり投資詐欺・悪徳商法の可能性が高い
4.1%超のリターンは基本的に怪しい
分類すると大きく2つですね。1つ目はウマい話が広告されていたり、向こうから勧誘しにくるはずがないということ。2つ目は低金利の日本では1%のリターンでも達成するのが難しいのに、元本保証に近い形での5%や10%といったリターンは決してありえないということ。この2点ですね。
これで恐らくほとんど全ての詐欺ファンドから定期預金を守れるのではないかと思います。
さてこのような怪しい詐欺ファンドを見分ける方法がいくつか発表されていますが、その1つにアブラハム・グループ・ホールディング株式会社社長である高岡壮一郎氏の公式ブログがあります。
アブラハム・グループ・ホールディングという名前を聞いたことがない人の方が多いのではないかと思いますが、この会社グループは「いつかはゆかし」というサービス名で海外ファンドを日本の個人投資家に仲介しています。
ある意味、日本人にとっては馴染みの薄い、言ってみれば怪しいと感じてもおかしくはない海外ファンドを個人投資家に紹介している当事者である同社社長がどのようなアドバイスをするのかそれだけでも注目されることに加えて、こちらのコラムでもご紹介したように同社の広告についてはかなり問題のある内容が含まれていると感じており、少なくとも記者自身はついつい意地悪な目線になってしまう点をご容赦いただければと思いますが、こういった内容になっています。
虚偽ファンドを見分ける4つのチェックポイント
1.高い金利での元本保証を謳っていないこと
2.投資ファンドのスキームに第三者機関が介在し、透明性があること
3.年率15%以上の運用実績は疑うべき
4.販売者と独立した第三者に相談すること
いかがでしょう?
上記の通りかなり意地悪な目線になっていることをご容赦いただければと思いますが、ツッコミどころは満載ですね。
まず1つ目の「高い金利での元本保証を謳っていないこと」ですが、そもそも世の中の全てのファンドは預金保険の対象ではない以上、金利が高かろうと低かろうと元本保証のファンドなどありえません。最も安全であろう国債ですら「元本保証」とは謳っていませんからね。元本保証と言えるのは定期預金、普通預金などの預金保険の対象となる円預金だけです。
つまりこの「高い金利での元本保証を謳っていないこと」は明らかに誤りで、正しくは金利に関わらず「元本保証を謳っていないこと」となります。
この時点で恐らく同氏が金融の知識がそれほど豊富ではないことが分かるわけですが(そもそもファンドのリターンは決して「金利」ではありませんしね)、一応先に進むと、2つ目のチェックポイントは「投資ファンドのスキームに第三者機関が介在し、透明性があること」です。これは理論的には正しいですね。理論的には。
同氏のブログから引用するとあるべき姿としてこうなっております。
つまり点線から上の部分で、海外ファンドのファンドマネージャーがただ投資対象に好き勝手に投資するのではなく、「アドミニストレーター」や「カストディアン」、「プライムブローカー」などの第三者機関が介在している方が望ましいということですね。
繰り返しになりますが理論的にはもちろんその通りです。
ただし現実的には、例えば本当にカストディアンによって資産が分別管理されているのかどうか、日本の個人投資家が直接確認する方法はほとんどありません。実際、2013年の最大の金融詐欺となったMRIインターナショナル社による「MARS投資」詐欺事件の場合でも、投資家の資金は「ロックボックス口座」に入金されるので投資対象である診療報酬債権を購入する以外には利用できません、と説明されていましたが、これは真っ赤な嘘でした。
つまりファンド側の「大丈夫ですよ」という言葉を信じるしか方法がないということであれば、実質的な牽制機能、チェック機能、透明性はほぼゼロと言えます。
もし本当に透明性を確保するのであれば、投資家自身がその第三者機関に直接確認できる体制が必要ですね。
3つ目のチェックポイントである「年率15%以上の運用実績は疑うべき」というのは完全に論外ですね。常識的に考えてノーリスク・ローリスクで15%のリターンなどありえません。特に日本円の場合はなおさらそうでうね。1.5%の運用実績ですら疑ってもいいと思います。
疑う方向性は2つですね。1つは「そもそもその運用実績が虚偽」であること。もう1つは「運用実績は正しいけれども、その裏側では結構なリスクを取っていた」という可能性ですね。
どちらも十分ありえそうですが、これもまた、素人ではなかなか検証する方法がありません。やはり冒頭ご案内したように「1%超のリターンは基本的に怪しい」くらいのスタンスが現実的なのではないでしょうか。
最後に4つ目のチェックポイントですが、「販売者と独立した第三者に相談すること」ということで、これは一転して全く正しいです。一般的な金融の知識のあるファイナンシャルプランナーなどであれば、「MARS投資」が怪しいことなど一発で見抜けていたと思います。明らかにおかしな商品でしたからね。
ただし。
上記図にあるような「投資助言会社」を「販売者と独立した第三者」とするのはやや無理がありますね。あくまで一般論ですが、こうした投資助言会社というのはファンド会社から一定の販売手数料をもらっている場合が多いからです。
つまり、第三者どころか、投資助言会社=販売者となって、投資家と完全に利害が対立することの方が多いのではないか、ということですね。
また、仮にそうした手数料関係が投資助言会社とファンド会社の間でなかったとしても、こうした投資助言会社への報酬は一般的には個人投資家の「預かり資産の残高」や「投資リターン」にリンクしており、少なくとも投資助言会社には、個人投資家に、より積極的に投資してもらいたいというインセンティブが発生する仕組みになっています。
だとすると、「どれに投資すべき」というアドバイスはもらえても、「投資すべきではない」というアドバイスは期待できません。
怪しいファンドから定期預金を守る方法として、「販売者と独立した第三者に相談すること」というのは正しいですが、投資助言会社に頼るというのは恐らく間違いですね。相談そのものにお金を払う報酬体型であるファイナンシャルプランナーなどを活用すべきです。
そんなわけで記者が同社社長のアドバイスを修正するとこうなります。
虚偽ファンドを見分ける4つのチェックポイント
1.元本保証を謳っていないこと
2.投資ファンドのスキームに第三者機関が介在していることを、投資家自身が第三者機関に確認できること
3.年率1%以上の運用実績は疑うべき
4.販売者と完全に独立した、ファイナンシャルプランナーなどの第三者に相談すること
いかがでしょう?
ただこれでもまだ、真贋を見分ける自信がない、という人は多いかもしれません。そうした方々にオススメしたい究極のチェック方法は「銀行で販売されている商品のみを利用する」ということですね。
銀行は極めて保守的ですので、怪しい商品が販売される可能性は限りなくゼロに近いと思います。実際、今回のMARS投資も含め、上記のような数々の投資詐欺商品の中で、銀行で販売されていたものは当然ゼロですね。
数%の利息に目がくらんで元本が減ってしまった、あるいは投資詐欺に遭った、なんてことになれば目も当てられません。やはり定期預金などの預金を守るためにも、投資に関しては「慎重すぎる」くらいのスタンスでいいのではないかと思います。
参考になさってください。
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