当方のサイト上でアヤシイ投資商品の広告が表示されているのを見たのをきっかけに、これまで連続してそうしたグレー商品の危険性について素人なりに分析してきたわけですが、今回はそれに関連して日経新聞で上記記事を見つけました。
これまでも何社か個人投資家から資金を集めて必要としている会社に貸し出す(アヤシイ)投資モデルについてご案内してきましたが、それらは大きなくくりで言えば「ソーシャルレンディング」と呼ばれるサービスですね。
もちろんソーシャルレンディング自体がアヤシイわけではなく、むしろ銀行にお金を貸してもらえない人にお金を貸してビジネスを支援していくというスキームには一定の社会的な意義があるわけですが、ただ結果的にハイリスク・ハイリターンの投資となるわけで、そのハイリターンの部分のみが強調されると途端にアヤしくなる、ということですね。
したがって記者がいつも気になっているのはその「ハイリスク」の部分なのですが、これがどの会社も全く開示されておりません。つまりはどの会社も相当アヤシイということですね。
翻って上記記事では、日本で最も権威ある経済紙の記事ですのでそうしたリスクの実態にまで踏み込んでいるかと期待したのですが・・・残念ながら
・利回りは案件によって異なるが、5〜8%のものが多く、1万円から投資することができる。
・都内の飲食店チェーンへの融資案件では年利換算で8%の配当を分配している。
・太陽光発電施設の整備を進めている企業には投資家に年5〜6%を配当する。
といったハイリターンの部分しか紹介されておりません。これだと単なるPR記事ですね。
日本の金利はもはや1%未満であることを考えると、仮に8%の投資案件であれば、7%程度の元本ロスリスクがないとその利回りを正当化できません。もし本当にほぼノーリスクで8%の利回りが出るような優良案件であれば、銀行がこぞって1〜2%の低利で貸すでしょうし、借りる側からしてもわざわざ8%といった法外な金利を払う必要はありません。
加えてこの8%といった水準が投資家に支払われる利回りとすれば、債務者は、仲介者=ソーシャルレンディング社に支払う手数料を上乗せして支払っているわけで、その利率は10%を超えていても不思議ではありません。
言い換えれば「そうした金利でしか借りられない会社」が貸出先ということでしょうから、当然ながら貸し倒れ率=焦げ付き率は相応に高いはずですね。以前の商工ローンや消費者金融の貸出先のイメージでしょうか。だとすると繰り返しになりますが、やはりそうしたハイリスクの部分の情報開示が極めて重要になってきます。
そんなわけで日経新聞の記事は役に立たないので記事内で「日本でのソーシャルレンディング運営の草分け的存在」と紹介されている、Maneo社のサイトをチェックしたいと思います。同社のすばらしい点は会社の決算書を発表している点ですね。その2015年3月決算はこのようになっています。
売上が6億円あって経常利益が1億23百万円。当期利益が1億16百万円。・・・儲かってますね!損益的にはその信用力に懸念はなさそうです。
次に貸借対照表を見るとこうですね。
なるほど。投資家から集めた資金=匿名組合出資金は一旦、このmaneo社で受け入れ、そこから貸出先に貸し付けをしているというわけですね。出資金は77億円で、貸出は69億円ということになります。多すぎず、少なすぎず、投資家からすれば一定の安心感・納得感を感じる規模なのではないでしょうか。
ただし。
まず気になるのはこの決算書のどこにも貸出の焦げ付きが現れていないのですね!通常はそうした焦げ付きに備えた「貸し倒れ引当金」が貸借対照表にあったり、あるいはもし毎期焦げ付きを処理しているのであればそれが決算書のどこかに表れてくるのですが、そうした記載は一切ありません。
焦げ付きが発生していないということであればそれはそれで素晴らしいことかもしれませんが、だとすると冒頭ご案内したように8%といったハイリターンの説明がつかなくなります。
また、貸し倒れ引当金がないということはもし実際に焦げ付きが生じればこのmoneo社の財務内容は一気に悪化することになります。貸出金69億円のうち7%が焦げ付けばそれだけで約5億円ですからね。純資産3億58百万円を一瞬にして吹き飛ばし債務超過に転ずるということですね。
うーん、アヤシサは深まるばかりです。
ちなみに売上=6億5百万円のほとんどが貸出利息だとすれば、平均的に残高が約69億円とすると実際の貸出利率は約9.4%ということになります。1億円を超える利益を計上しているわけですからそれくらいの利ざやがあって当然ですが、一方でそれは、実際のリスクは7%ではなく8〜9%あることを示唆しています。
となってくるとより、この会社の財務基盤の脆弱さが浮き彫りとなってきますね。
もちろんそうした財務基盤の弱さが問題だと言う気はありません。どこの会社も立ち上げ期は体力がないのは当たり前です。問題はそうしたリスクが投資家に積極的に説明されていない、という点です。
それでも財務状況を開示しているだけ他の業者と比較すればマシと言えるのかもしれませんが、しかし不誠実である点に変わりはありません。
ソーシャルレンディングサービスが日本に根付くには相応の期間の浄化プロセスが必要なのでしょうね。
そもそも低金利かつ金余り、さらに公的なベンチャー支援体制が整っている日本で本当にそうしたソーシャルレンディングサービスが必要なのかと言うのは甚だ疑問ではありますけれど。運用ニーズはあっても借入ニーズがありませんからね。
社会的意義に共感した個人投資家が泣きを見ることがないよう祈りたいと思います・・・。
最後に、いつものようにアヤシイ投資案件のチェックポイントをご案内するとこういうことですね。
1.リスクとリターンは連動しており、たとえば毎年5%のリターンなら毎年4%といった損失が、毎年10%のリターンなら毎年9%といった損失が発生する可能性があり、そうした損失発生の可能性を隠しているのであれば詐欺の可能性が高い。
2.もし本当にローリスク・ハイリターンのビジネスがあるなら銀行が1%〜2%といった低利で喜んでお金を貸してくれるはずであり、それをわざわざ手間暇かけて個人から高金利で資金を集めるというなら詐欺の可能性が高い。
3.運用難の今の時代に本当に有利な商品ならみんなが飛びつくはずであり、わざわざ広告しないといけないのは詐欺の可能性が高い。
参考になさってください。
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