当方のサイト上でアヤシイ投資商品の広告が表示されているのを見たのをきっかけに、これまで連続してそうしたグレー商品の危険性について素人なりに分析してきました。
そして今回取り上げるのは株式会社シノケンプロデュースのアパート投資ですね。サイトで謳われているように
・100万円の投資で2億円の資産を作る勝利の方程式
があるなら是非聞いてみたいところです。というわけで早速、その投資事例を見てみるとこのようになっています。
要するに、自己資金200万円で2億2,704万円の資産を手に入れたということですね!しかも2棟目の自己資金は1棟目の賃料収入から捻出できれば確かに「100万円で2億円の資産」となります。
一般人でもあっという間に「億万長者」「億り人」になれるわけです!
ではこのシノケンのアパート投資は魅力的なのでしょうか?
・・・もちろん、そんなわけはありません。もし簡単に100万円が2億円になるなら、シノケン自身が自己資金で投資するはずですね。そうせずに投資家を募ってアパート販売しているということは、「アパートを販売する利益」の方が「アパートに投資する利益」より大きいということを意味しています。
ではこの話のどこに「裏」があるのでしょうか?
一番分かりやすいのは2億円の資産の陰に2億円の借金があるということですね! 言い換えれば「100万円で2億円の資産と2億円の借金を作った」という話ですから手放しでほめられるものではありません。
加えて、「2億円の資産と借金」ならまだプラスマイナスゼロで良いですが、この新築アパート2棟は残念ながら2億円の価値はありません。と言うのもシノケンの利益がガッツリ上乗せされているからですね。
ではどれくらいの利益が上乗せされているかということですが、シノケン社の決算を抜粋するとこうなっています。
前期は17%、今期は12%の利益率になっています。平均すれば15%程度ですね。これだけでも結構高いですが、セグメントの人件費や販管費を控除しての利益かと思いますので、粗利益率としてはざっくりその倍の30%程度でしょうか?もしそうだとすれば「2億2,704万円」のアパートの市場価値は「1億5,892万円」ということになります。
要するにこのサトウさんの資産状況はこういうことですね。
・資産:1億5,892万円
・負債:2億2,704万円
=6,812万円の債務超過
とすると正確には「100万円で7,000万円のマイナスを作った」ということですね!何が勝利の方程式なんでしたっけ・・・。
サトウさんはせめて、業者の利益がたっぷり乗った新築物件ではなく、中古物件を買えばまだ勝利に近づけたかもしれませんが。
ただ一方でこれはあくまで一時的な資産状況を切り取っただけであって、不動産投資の本質を見ていないという批判があるかもしれません。と言うのもこの2物件からは上記の通り「1,302万円」の家賃収入があると説明されているからですね。
仮に6,812万円のマイナスがあっても5年と少しで回収できるのであれば、あまり債務超過状態に過敏になる必要はなさそうです。
というわけでここからはアパートの耐用年数が40年として、期間40年のトータルリターンについて考えてみたいと思います。まず収入面では「1,302万円×40年」としたいところですが、そう単純ではありません。
まず考えないといけないのは「空室率」ですね。シノケン社のサイトでは入居率が「99%以上」と喧伝されていますが高すぎて参考になりません。
報道によれば首都圏のアパートの空室率は30%を超えているようですが、さすがにこれはちょっと悲観的すぎるかなという気もします。
ということで総務省が実施している「住宅・土地統計調査」から空室率を算出すると18.9%ということなので約2割とします。40年後なら人口はさらに減っているでしょうから高めに見ておいて問題なさそうです。
加えて築年数が経るにしたがって賃料は徐々に下がっていきます。この賃料の低下率を年1%とすると、空室率も考慮した40年間の収入はこうなります。
・賃料収入(空室率・賃料低下考慮):3億3,500万円
次に費用を考えていきたいと思います。
まずはアパートローンの利息ですが、現在は3%程度のようですのでそこから算出するとこうなります。
・支払い利息:1億4,000万円
次に新築アパート購入時のシノケン社利益はそのまんまオーナーの損失ですからこうなります。
・業者利益:6,800万円
次に建物は40年後に建て替えるとなると無価値になるわけですからその損失=経年劣化を考えてみます。土地と建物の内訳はよく分かりませんが一等地ということはないでしょうから、建物代金はざっくり7割くらいでしょうか?とするとこうなります。
・建物の経年劣化:1億1,000万円
次に修繕費ですが、一般的な戸建てだと10年毎に100万円→200万円→400万円といった感じでしょうか?こちらは1億6,000万円の物件ですから単純に言えばその5倍くらいとなりそうです。賃貸物件ですから傷みも早そうですしね。というわけでこんな感じです。
・修繕費用:500万円→1,000万円→2,000万円=3,500万円
さらに管理会社に払う管理費用も必要になってきます。これは5%くらいのようですので以下の通りです。
・管理費用:1,700万円
また、入居が決まった場合には業者への広告費=成功報酬も必要になってくるようです。これも5%くらいとすればこうなります。
・広告費:1,700万円
最後に固定資産税ですね。こちらは売買価格の1%程度のようですので年間160万円となります。40年ではこうですね。
・固定資産税:6,400万円
これらの費用をまとめると以下の通りです。
・アパート経営費用合計:4億5,100万円
賃料収入が3億3,500万円ですから、ざっくり
・トータル損益:1億1,600万円の赤字
ということですね!子供が2人もいるのに大丈夫ですか、サトウさん・・・。
ちなみに自己資金で賄い、ローンがない場合の損益はこうなります。
・トータル損益(ローンなしの場合):2,400万円の黒字
40年間のリターンとしては心もとない水準ではありますが、それでも一応黒字ですね。やはり不動産投資は「お金持ち」がするべきものであって、サラリーマンが手を出してはいけない気がします。
ちなみに土地が約4,800万円残りますが、これは4,800万円払って購入したものですので損益には影響しません。
仮説に仮説を重ねた試算ですが、結構いい線を行っているのではないでしょうか?
いずれにしてもここから得られる教訓は2つです。
1つ目は、アパート経営をしようとする人は耐用年数が来るまでのトータルリターンを自分でしっかり計算しないといけないということ。
そして2つ目は、アパート経営をセールスする会社もまたしっかりトータルリターンを明示した上で勧誘すべきだということです。
その点では「100万円で2億円の資産」という宣伝文句は正直、「詐欺に近い」もののように感じます。
さらに同社サイトでは「家賃収入からローン返済金を差し引きすると一棟あたり年間100万円を超える収益を出せている」と書かれていますが、本来の費用が反映されていないということを考慮すれば「詐欺」と言ってもいいと思います。
本当に上場企業なのでしょうか・・・。
もしサラリーマンがアパート経営で億万長者になれるなら、世の中、億万長者だらけなはずですね。そうなっていないということは、やはりそれなりのリスクがあるということです。旨い話はありません。
では最後に、いつもご案内しているアヤシイ運用を見分けるチェックポイントはこうなっています。
1.リスクとリターンは連動しており、たとえば毎年5%のリターンなら毎年4%といった損失が、毎年10%のリターンなら毎年9%といった損失が発生する可能性があり、そうした損失発生の可能性を隠しているのであれば詐欺の可能性がある。
2.もし本当にローリスク・ハイリターンのビジネスがあるなら銀行が1%〜2%といった低利で喜んでお金を貸してくれるはずであり、それをわざわざ手間暇かけて個人から高金利で資金を集めるというなら詐欺の可能性がある。
3.「マイナス金利」で運用難の今の時代に本当に有利な商品ならみんなが飛びつくはずであり、わざわざ広告しないといけないのは詐欺の可能性がある。
加えてこちらの記事も参考になさってください。
>>><備忘録>怪しいファンド、投資案件の見分け方
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