当方のサイト上でアヤシイ投資商品の広告が表示されているのを見たのをきっかけに、これまで連続してそうしたグレー商品の危険性について素人なりに分析してきました。
そして今回取り上げるのはラッキーバンク・インベストメント株式会社が販売する投資ファンドですね。ホームページを見ると以下のような紹介があります。
・投資利回り年6〜10%
・全案件不動産担保を設定
・数万円から投資可能
安全な上に利便性が高く、さらに高利回りということであれば期待が高まりますが、ただ残念ながらそんな商品はありません。リスクとリターンは必ず相関しているわけで、高いリターンの裏には「必ず」高いリスクがあります。もし仮にローリスク・ハイリターンの商品があれば・・・誰も人に紹介しませんよね。
というわけで相応の「怪しさ」が醸し出されていたわけですが、実際、既に金融庁から行政処分が下されていますね。その中身を抜粋するとこうなります。
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・貸付先のほとんどは、田中翔平代表取締役の親族が経営する不動産事業を営むX株式会社となっている。
・X社より提出された財務諸表において、売却契約の締結に至っていない物件を売上に計上するなどして、純利益や純資産が水増しされているにもかかわらず、これを看過していた。
・X社が手掛ける複数の不動産事業について事業期間が延長となる事態が発生し、この間、X社は売却資金を得られず、平成29年3月以降に償還期日を迎えるファンドに係る借入金の返済が困難な状況となっていることを認識したにもかかわらず、その後もX社を貸付対象先とするファンドの募集を継続している。
・当社は、X社が保有する不動産に担保を設定して、「不動産価格調査報告書」を掲載しているが、当該報告書は、正式な不動産鑑定評価を行った上で作成されたものではなく、対外的に公表できない不動産価格をウェブサイト上に掲載し、ファンド出資持分の募集を行っている。
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ラッキーバンク社が多額の資金を貸し付けていたX社の経営実態はと言うと上記の通りこう指摘されています。
・財務諸表において純利益や純資産が水増しされている
・売却資金を得られず、平成29年3月以降に償還期日を迎えるファンドに係る借入金の返済が困難な状況となっている
粉飾している上に借りた金が返せなくなっているわけですから、実質的に破綻状態にあるか、それに近づいている状況であると読み取れます。最悪ですね・・・。
またラッキーバンク社自身も上記の通り、「デタラメで公表してはいけない不動産価格」を表示しているわけですから同罪です。
そうしたわけで、投資家の資金回収がかなり困難になることが容易に想像できたわけですが、実際にはこのようになりました。
・2018年12月にラッキーバンクが債権を譲渡
・債権総額が約50億円に対して譲渡額が約16億円=債権の32%
・ファンド募集時に公表していた不動産の鑑定評価額は約60億円
最終的に残っていた債権=約50億円に対して約16億円しか回収できなかったわけですから、投資家の損失は約7割ということになります。
実際に集めた資金の「累計」は155億円のようですが、資金のほとんどは出金されずに再投資されたと思われますので、その点ではこの「約7割」という水準は実質的な損失割合と考えていいと思います。
誠に悪質ですし、この結果だけを見れば「評価額60億円というのが間違いで、
・実際には16億円の価値しかないものを60億円の価値があると言って50億円もの資金を集めたわけでラッキーバンクはひどい
という話になりそうです。
しかし、この債権譲渡の経緯を見てみるとどうやらそういうことではなさそうです。こちらのサイトで公表されているラッキーバンク社からの「債権譲渡のお知らせメール」から抜粋するとこうした記述があります。
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1.任意売却の検討の経緯
X社の保有する担保不動産20物件のうち、2物件が売却に至りました。また、他の一部の担保不動産についても、売却に向けた交渉が進んでいたものもございましたが、成約には至っておりません。加えて、一部の担保不動産については、X社の資金繰りが悪化したことで、当初計画していた改装工事等を中止せざるを得なくなり、販売活動自体に全く進捗が見られない状況となっておりました。
2.不動産競売の検討の経緯
不動産競売については、本件全ての担保不動産のための予納金として、4,000万円ほどかかるとの試算が出ておりました。一部の担保不動産について段階的に競売を申立てるという選択肢もありましたが、不動産競売によって毀損を生じさせるよりも、任意売却で出資金の回収の極大化を図るべきと判断し、当該時点においては、任意売却を継続的に求めていくという方法を選択しておりました。
なお、全担保不動産について、弊社が試算した不動産競売による売却見込価額は、総額約19〜20億円となりました。この金額は、弊社がファンドの募集時に評価し、公表していた不動産調査価格の約60億円の約3分の1となっておりますが、これは、一般的に、不動産調査価格は不動産の収益を考慮して価格を算出するものであるのに対し、不動産競売における売却の基準となる価格は、原則として不動産の収益を考慮せず、公示地価等の積算価格により算出するため、このようなかい離が生じたものです。
3.債権譲渡の検討の経緯
債権回収会社の合計5社の債権譲渡候補先と接触を図っていました。当該5社とは、本格的に対象債権の譲受けを検討することとなり、競争入札により譲渡価額の提示を受けました。
4.臨時取締役会における決議
競売を申し立てた場合に、(1)両社に対する債権の処理までにかかる期間が長期に及んでしまうこと、(2)弊社の現在の資金繰り状況を踏まえると、予納金の準備は極めて困難であることから、競売を選択することは困難な状況であると判断いたしました。
弊社の財務状況に鑑み、速やかに債権回収方針を決定する必要があるため、当該期日時点で入札のあった5社から債権譲渡先を決定することとし、最高入札者に対する譲渡を、弊社臨時取締役会にて決議したものです。
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要するに任意売却は捗々しくなく、競売には4,000万円かかるのでそんなお金はなく、したがってとっとと債権譲渡してしまいましたよ、という話です。問題点は大きく3つですね。
1.X社への債権は本来、投資家のものであり、その担保不動産も当然に投資家のものと言えます。それを勝手に売却していいのか?
2.同社自身が明記しているように、任意売却すれば不動産の収益を考慮した価格=約60億円で売却できる可能性があったのに特段の理由もなく任意売却を諦め、予納金4,000万円を捻出できないという意味不明な理由で約20億円で売却できる可能性があった競売を諦め、約16億円という経済合理性から見ればあり得ない選択をした。
3.しかもその疑惑の取引の相手先である債権譲渡先は「相手方との守秘義務により開示いたしかねます。」ということで全く信用できません。
うがった見方をすれば、この債権譲渡先は経営層の会社で、「60億円の不動産を16億円で買い叩いた可能性がある=濡れ手で44億円の利益を得た可能性がある」ということです。
16億円の購入資金については、さすがに60億円もの担保があれば簡単に銀行から調達できるでしょうし、仮にそれができなくても16億円分の担保不動産を売却できれば完済できて、後は44億円の不動産がタダで手元に残ることになります。
上記の通り
・任意売却を諦めた理由が全く不明
・競売を諦めた理由が意味不明
・債権譲渡先を開示しない
という点を考えれば答えは1つのような気がしますが、みなさんはどう感じられるでしょうか?
なお、もちろん投資家の方々もそれはお分かりのようで、1月21日に「個人投資家45人が業者らに計2億7千万円の賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした」とのことですね。
「業者への賠償請求訴訟では原告の数、請求額ともに最大規模という」とのことですが、仮に約3億円の賠償をしたとしても差し引き41億円の不動産が経営層の手元に残るような気がするのは記者だけでしょうか・・・。
その点ではこのラッキーバンク社の事案は、「虚偽の情報で資金を集めた」という「入り口」より、「約60億円の担保不動産を約16億円で叩き売った」という「出口」の方が悪質と言えそうですね。
前者については投資先の透明化などの対策が徐々に進んでいますが、後者については今のところまだ手付かずなのではないでしょうか?
繰り返しになりますが、融資先への債権も担保不動産も本来、「投資家のもの」です。勝手に処分できないような投資家保護の仕組みが急務ですね!
逆にそうした投資家保護の仕組みが未整備なのだとすると・・・こうしたソーシャルレンディングへの投資は「時期尚早」と言えそうです。
金融庁が抜本的な対策と取り締まりに乗り出すことを期待したいと思います。
では最後に、いつもご案内しているアヤシイ運用を見分けるチェックポイントはこうなっています。
1.リスクとリターンは連動しており、たとえば毎年5%のリターンなら毎年4%といった損失が、毎年10%のリターンなら毎年9%といった損失が発生する可能性があり、そうした損失発生の可能性を隠しているのであれば詐欺の可能性がある。
2.もし本当にローリスク・ハイリターンのビジネスがあるなら銀行が1%〜2%といった低利で喜んでお金を貸してくれるはずであり、それをわざわざ手間暇かけて個人から高金利で資金を集めるというなら詐欺の可能性がある。
3.「マイナス金利」で運用難の今の時代に本当に有利な商品ならみんなが飛びつくはずであり、わざわざ広告しないといけないのは詐欺の可能性がある。
加えてこちらの記事も参考になさってください。
>>><備忘録>怪しいファンド、投資案件の見分け方
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